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「2018年度 海外研修 III A 」訪問先

サンディワアーン学習センター付属デイケアセンター (Day Care Center, Sandiwaan Center for Learning)

「2017年度 地域研究・国際研修プログラム(フィリピン)」と同様,NGOライズエイジアとベニグノ・ベルトラン神父が運営に携わる幼稚園,サンディワアーン学習センター付属デイケアセンターを訪問しました。マニラの貧困地区トンドにある同幼稚園では,園児たちに無料で教育・給食を提供しています。給食は,ビタミンなどの栄養を考慮することの大事さを,子どもたちと保護者に伝える食育活動の一環です。
 

研修1週目に,同幼稚園の幼児教育,食育活動をお手伝いしました。幼稚園でのお手伝いを通して,自分たちが向き合っていく「貧困」の実態にふれることが,研修1週目の大きな目的でした。

ケソン市カムニン地区聖心教会 (Sacred Heart Parish Shrine, Kamuning),サンディワアーン学習センター (Sandiwaan Center for Learning),「歓びの家 (Home of Joy)」

サンディワアーン学習センター付属デイケアセンターでの活動の初日には,ベニグノ・ベルトラン神父の所属するケソン市カムニン地区聖心教会に,神父を訪ねました。神父からは,貧困問題をはじめ,自然環境問題など,各種社会問題への神父の取り組みについて,英語でお話を伺いました。印象的だったのは,神父が自身の活動の広がりを,2015年に国連で採択された SDGs (Sustainable Development Goals: 持続可能な開発目標) の枠組みでとらえなおされていたことです。また,自然環境にダメージを与えない農業を軸に,食料の生産と流通の社会システムを変えようと試みられており,そうした社会システムの変革のなかに,貧困問題への取り組みを位置づけなおされようとしていることも,とても印象的でした。


幼稚園で活動した研修1週目には,ほかにも、初等教育を終えることができなかった人びとに再教育を提供し,あわせて,生計を立てるための職業訓練も施すサンディワアーン学習センターを訪問しました。本センターも,幼稚園と同じくトンド地区にあり,ベルトラン神父が運営されています。

 

さらに,マザー・テレサの創設した修道会「神の愛の宣教者会 (Missionaries of Charity)」が運営するトンド地区の施設「歓びの家 (Home of Joy)」を訪問しました。この「歓びの家」は,経済的な理由から両親が育児を継続できなくなった病気の子どもや,親のいない子どもを預かり,養育しています。この施設では,子どもたちといっしょに遊んで時間をすごすとともに,子どもたちへの食事の提供のお手伝いする機会を頂戴しました。

アダムソン大学 (AdU: Adamson University)

研修の2週目から4週目にかけての3週間,マニラの私立大学アダムソン大学にて,英語4技能を鍛える教育を受けるとともに,フィリピン社会が抱える貧困・格差等の問題や,フィリピン社会のあり方を大きく規定してきた経済構造について,英語で学びました。

 

英語4技能を鍛える教育を提供してくださったのは,マリア・ベリンダ・レドール先生 (Ms Maria Belinda Redor) が統括される「言語学習センター (Center for Language Learning)」の先生方です。貧困・格差等の問題は,アダムソン大学が展開するコミュニティ活動を管轄する部局である「学外コミュニティ統合部局 (Integrated Community Extension Services)」のロディル・ファドリ博士 (Dr. Rodil Fadri) と彼のスタッフが,授業を用意くださいました。経済構造については,「ビジネス管理学部金融・経済学科 (Department of Finance and Economics, College of Business Administration)」のアーマン・クルス博士 (Dr. Arman Cruz) がご教授くださいました。

教室外の活動も,刺激的なものばかりでした。たとえば,「学外コミュニティ統合部局」の活動現場を訪問しました。その活動現場の地域コミュニティは,ラグーナ州カブヤオ市に位置します (Cabuyao, Laguna)。同コミュニティは,2000年代半ばから,マニラとその周辺地域にて,国有鉄道網整備のため,貧しい不法占拠者を多く含む線路沿い居住区が撤去された際に,線路沿い居住区から移住した人びとを主たる住民としています。
 

アダムソン大学は,コミュニティ形成の当初から,さまざまな場所から移住してきた人びとに対して,貯蓄や人生設計の大事さを伝え,生活を安定させるノウハウを教える活動や,協同組合の組織化と運営を促し,そのノウハウを伝授する活動などを実施してきました。それら活動の地道で継続的な展開は,住民ひとりひとりをつなぎあわせる役割をはたし,安定したコミュニティの形成に寄与してきました。住民の方々によると,移住当初は街のなかやまわりになにもなく,また,犯罪も少なからず起こったそうです。それが現在は,アダムソン大学によるサポートの積み重ねもあり,活気がありながら安全な街ができあがりつつあります。結婚のためこのコミュニティに移り住んだ別地方出身者の方から,アダムソン大学に支えられたコミュニティの活気と安全さにふれて,自分の出身地との違いに驚いた,という話も聞きました。
 

実は,研修6週目に訪問したリサール州ロドリゲス町の CBR 事業地も,2000年代半ばに,マニラとその周辺地域の線路沿い居住区から移住した人びとを主たる住民とした土地です。研修では,結果的に,2000年代半ば以降のマニラ都市開発に起因した周辺地域の変容と再編について,考えさせられることになりました。
 

アダムソン大学での教室外活動は,ほかにもたくさんありました。英語の授業では,フィリピン国立博物館 (The National Museum of the Philippines) を訪問し,フィリピンの歴史にまつわる展示物を閲覧しつつ,専属のガイドから英語で詳しく説明を受ける,といったアクティビティが実施されました。経済の授業では,フィリピン中央銀行 (Bangko Sentral ng Pilipinas) の展示室を訪問し,フィリピンにおけるコインや紙幣の流通と製造の歴史を学びました。この展示室でも,専属のガイドが詳しい説明を提供してくれました。
 

さらに,大学の図書館や美術館,大学運営各部局でお手伝いする時間が設けられていたり,フィリピン各地の伝統的舞踊を練習して覚える時間が設けられていたり,とにかく盛りだくさんの3週間でした。大学創立記念日のイベント「世界の味覚 (Taste of the World)」に浴衣で参加して,日本の抹茶と茶菓子を振る舞い,習字を実演したことや,奨学金を募る目的の早朝マラソンイベント「ファン・ラン (Fun Run)」に参加したことも,とても思い出深い経験になりました。
 

大学での3週間の滞在の最後には,滞在を締めくくる式典が用意されていました。この式典では,アダムソン大学長のマルセロ・マニムティム神父 (Father Marcelo Manimtim) や,3週間の研修を受け入れる準備のための特別チームの長を務めてくださった副学長アンドリュー・バヤール神父 (Father Andrew Bayal) もご参加くださり,あいさつの言葉を頂戴しました。研修に参加した学生は,この式典で,自分たちが練習して覚えた舞踊を披露しました。また,学生ひとりひとりが,3週間の滞在について感想を述べました。
 

3週間の研修が充実したものとなるよう,周到に準備を進めてくださったのは,大学関係局長を務めるシスター,マルハ・フアン女史 (Sister Maruja Juan) です。フアン女史のサポートがなければ,アダムソン大学での素晴らしい3週間は存在しえなかったはずです。フアン女史には,感謝してもしきれません。そのフアン女史が,週末に用意された小旅行に同行くださったことは,素晴らしい思い出のひとつとなりました。この小旅行では,タール湖という火山湖にバスで出かけ,火山湖を見下ろす場所に設けられたレストランで食事をとりました。その後,火山湖近辺の植物園と動物園に訪れました。

アダムソン大学のホームページにて,研修の模様が紹介されました!

追加記事・写真

アダムソン大学での学習期間に大変お世話になった方のひとりに,組織展開・渉外・博物館アーカイブズ局長を務めるラウル・アグナー氏 (Mr. Raul Agner) がいます。アグナー氏は,大学での3週間の滞在の初日に,アダムソン大学博物館を案内してくださりました。その氏は,実は,水彩画とドローイングを手がける画家でもあり,学内にある舞台劇場の建物のなかに,繊細にして力強いドローイングが飾られていました。

先だって,そのアグナー氏と半年ぶりに連絡を取りあう機会があったのですが,今年の 6 月に定年退職されたことをはじめて知りました。ここでは,氏への感謝とともに,アダムソン大学博物館訪問時の模様と,氏のドローイング 2 作品を紹介します。

三人の方々の名古屋外国語大学訪問が,アダムソン大学のホームページで紹介されました!

 

2019年7月16日 (火) に,アダムソン大学副学長アンドリュー・バヤール神父,大学関係局長を務めるシスターのマルハ・フアン女史,ビジネス管理学部金融・経済学科のアーマン・クルス博士の3人の方々を,名古屋外国語大学にお迎えしました。3人の方々とは,2020年1月末から3月中旬にかけて予定されている海外研修の一環として学生がアダムソン大学に滞在する際に,どういった授業を受け,どのような社会活動に参加するかを話し合いました。あわせて,世界教養学部長の福田眞人先生,世界教養学科長のダグラス・ウィルカーソン先生,そして,世界教養学科の学生と交流する場をもちました。2020年実施のフィリピン研修 (「2019年度 海外研修 III A」) を,鋭意,準備中です!

マガット・サラマット小学校 (Magat Salamat Elementary School)

「2017年度 地域研究・国際研修プログラム(フィリピン)」で訪問した公立ヤンコ小学校のカルマ校長先生が,その後転任され,同じ貧困地区トンドにある別の公立小学校のマガット・サラマット小学校にて,新たに校長を務めることになりました。「2018年度 海外研修 III A」では,研修5週目に,マガット・サラマット小学校を訪問しました。同校では,授業に参加してその進行のお手伝いをするとともに,先生方や生徒の皆さんと交流する時間をもち,貧困地区における教育の役割について考えました。

リサール州ロドリゲス町CBR (CBR=Community Based Rehabilitation) 事業地

「2017年度 地域研究・国際研修プログラム(フィリピン)」でも訪れた,障がい児,障がい者とその家族を支える地域コミュニティ活動の現場を,研修最終週にあたる研修6週目に訪問しました。
 

「2017年度 地域研究・国際研修プログラム(フィリピン)」の際に,障がい児,障がい者のリハビリ活動に従事する医療関係者の方々からうかがった話のなかで,強く印象に残った指摘がありました。それは,貧困に苦しむ人びとは,自分自身や家族が障がいを抱えたときに,必要とされる医療サポートにアクセスするだけの資金的余裕がなく,加えて,必要な医療サービスに関して知識を形成する機会がもそもそも不足している,そういった実情がフィリピンにはある,という指摘です。これはつまり,障がい児,障がい者に対して医療福祉を提供するという社会的課題と,すべての人がよりよい人生を送ることができるよう貧困を解決するという社会的課題が,発展途上国においては互いに重なりあい,絡みあった問題となっている,ということを意味します。「2018年度 海外研修 III A」では,地域コミュニティ活動のお手伝いをしながら,そうした「複数の社会的課題の重なりあい,絡みあい」について考えました。

リサール州ロドリゲス町の CBR 事業地は,アダムソン大学での学習期間に訪問したラグーナ州カブヤオ市のコミュニティと,共通する特徴をもちます。いずれも,2000年代半ばから,マニラとその周辺地域にて,国有鉄道網整備のため,貧しい不法占拠者を多く含む線路沿い居住区が撤去された際に,線路沿い居住区から移住した人びとを主たる住民としています。

 

研修6週目に毎日訪問した,障がい児・障がい者とその家族の組織「SAMABAKAMO」はサン・ホセ地区 (Barangay San Jose) のマリキナ川 (Marikina River) 北岸地域に拠点がおかれていましたが,このサン・ホセ地区北岸地域は,2000年代半ば以降に多くの人びとが移住した,いわば「新しい町」です。「SAMABAKAMO」では,施設でのインターン活動に加えて,障がい者・障がい児の家族との交流のなかで,2000年代半ば以降に移住してからの生活とそれ以前の生活との違いを聞くなどの活動も実施しました。
 

ロドリゲス町では,サン・ホセ地区の「SAMABAKAMO」での活動のほか,ロドリゲス町全地区の障がい者を支援対象とした障がい者組織「PEDFERO」にお邪魔し,その組織活動についてお話を伺いました。あわせて,ロドリゲス町の社会福祉や医療の担当部局の方々からお話を伺いました。

追加記事・写真

ロドリゲス町での活動後の「ふりかえり」のなかで,「SAMABAKAMO」での障がい者・障がい児の家族との交流を通して得た情報や,「PEDFERO」でお聞きした情報を,地図を使って整理しなおすことを試みました。時間をかけて整理しなおすことにより,2000年代半ば以降に形成の進んだ「新しい町」と,それ以前から形成されていた町の双方における住居の分布や人口の分布,障がい児・障がい者とその家族の住む場所の分布を,少しずつ、粘り強く、把握していきました。あわぜて,障がい者・障がい児の障がいの種類と程度や,家族ごとの生活状況に関してお聞きした情報を,研修参加者全員で共有しました。そのように,地理的情報の把握と,生活状況の把握が進むことで,ロドリゲス町における障がい児・障がい者とその家族の生活環境の現状を,より具体的に理解することができました。

Study Room of Akihiro Hirayama

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